【No.2】 早春から注意!「ユスリカアレルギー」~窓のサッシに飛来して微細塵になることも~
- 康夫 緒方
- 3月17日
- 読了時間: 3分
暖かくなってくる早春は、「スギ花粉症」を発生して悩まされる方が多い季節でもあります。
この季節、越冬から目覚めた様々な昆虫が活動を開始して、人目につくようになります。
河川、貯水池、農業用水路などの近くにお住まいの方は、その周囲で蚊に似た小さな昆虫が群飛(swarming)している様子を目にすることがあると思います。
この昆虫はハエ目(双翅目)ユスリカ科(Chironomidae)に属するユスリカという昆虫(図1)です。
大半の種の幼虫が水生であらゆる淡水域に棲んでいます。〝ユスリカ〟という和名は、幼虫が水底で泥から半分体を出して揺するように動かすことに由来しています。成虫の姿形は蚊に似ていますが、口器や消化管が退化しているため、刺して吸血することはありません。しばしば川や池の近くで「群飛=蚊柱」をつくりますが、近づくと顔の付近に纏わりついて不快です。
蚊柱は古くから知られており、俳句の季語にもなっています。
正岡子規は『夕立の来て蚊柱を崩しけり』、小林一茶は『一つ二つから蚊柱となりにけり』と読んでいます。蚊柱は、1匹のメスと多数(数百~数千頭)のオスで構成されています。蚊柱が形成される理由は交尾のためで、単独で生活するメスは、繁殖期になるとオスの集団である蚊柱の中に飛び込んで、お気に入りのオスを見つけて交尾すると、川面などで産卵します。産卵を終えるとすぐに死んでしまいます。
成虫の寿命は長くても一日から数日ほどです。アフリカのマラウイ湖での蚊柱は数10メートルの高さになることで知られていますが、日本でも琵琶湖や霞ケ浦での大きな蚊柱が著名です。
世界から約1万5000種、日本からは約2000種が生息していますが、種類によってきれいな河川、澱んだ池や湖、海岸沿いなど様々な水域に分布していることから、水域の汚染度を調べる環境指標生物になっています。
生活排水などによって、極端に河川の富栄養化が進むと大量発生して人への被害が顕著になります。河川の近隣住宅では、「洗濯物を干せない」、「窓を開けられない」といった問題が生じます。洗濯物に止まったユスリカを知らずに潰すと黄色い体液が洗濯物に付着して汚染します。
特に注意しなければならないのは、ユスリカを抗原とした「アレルギー性鼻炎」や「ユスリカ喘息」と呼ばれる呼吸器疾患です。アレルギー疾患は、大量発生したユスリカが交尾産卵して死滅した後、死骸が微細な粒子となって、空気中に浮遊することで起こります。具体的には、住宅の窓のサッシに飛来したユスリカの死骸が乾燥して破砕し、微細塵となり、窓開け換気の際に、室内へ侵入するケースが挙げられます。ハウスダストアレルギーと診断されている方は、特に注意が必要です。
対策として、春季から初夏にかけては、特に窓のサッシや網戸に貯留した飛来昆虫の死骸をこまめに掃除機で吸引除去するようにしましょう。

図1 セスジユスリカ(Chironomus yoshimatsui Martin & Sublette)
2025年3月16日 (文章責任:川 上 裕 司)
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